薬剤師のための疑義照会
更新日:2024年10月29日
薬剤師のための疑義照会
疑義照会と聞いて胸がときめく薬剤師さんは少ないと思います。どちらかと言うと悪い意味で胸がドキドキする薬剤師さんが大部分だと思います。
薬剤師にとって、疑義照会は法律でも規定されている患者さんの安全を守る上で非常に重要な業務ですが、同時に大きなストレスを感じる原因にもなっています。主なストレス要因としては、以下のようなものが挙げられます。
医師とのコミュニケーションに関するストレス
・医師の対応が冷たい、高圧的
・疑義照会の意図がうまく伝わらない
・忙しい医師に時間を割いてもらうことに罪悪感を感じる
・医師からの回答が遅い
患者さんとの関係性におけるストレス
・患者さんを待たせてしまうことへの焦り
・患者さんから不満を言われる
・患者さんに疑義照会の内容をうまく説明できない
業務負担増加によるストレス
・疑義照会に時間がかかり、他の業務に支障をきたす
・疑義照会の内容を記録する手間
・疑義照会が多いと、残業に繋がる
その他
・疑義照会の内容が専門的で、自身で判断できない
・過去の経験から、疑義照会に対してトラウマがある
・疑義照会によって、医師との関係が悪化するのではないかと不安に感じる
これらのストレスが蓄積すると、極端な話をすると薬剤師の精神的な負担を増大させ、離職やburnoutに繋がる可能性も懸念されます。 薬剤師が安心して疑義照会を行える環境を作るためには、医師と薬剤師間の相互理解と協力体制の構築、そして疑義照会を効率的に行うためのシステム整備などが重要です。
私(1人のクリニック院長)にとっての疑義照会
私は2017年に眼科クリニックを開業しました。開業して、医療現場における様々な課題(マクロな医療制度からミクロな診療現場まで)に直面し、ため息をつくことが多くなりました。それらを自分の為に解決しようと試みてその過程を発信しております。多くのため息の中で大きなものの一つが疑義照会に対するものでした。[1][2][3][4]
診察室のすぐ後ろに受付があるため、受付スタッフの電話対応の雰囲気から薬局からの疑義照会であることはなんとなく分かります。しかし、眼の前の患者さんを診察している中で、すぐに対応できないことにストレスを感じていました。 その電話の向こうで待っておられる薬剤師さんと自分のクリニックの患者さんの姿が想像できたからです。もちろん、全ての電話に院長である私が出れば、疑義照会にも即座に対応できます。しかし、それは現実的に不可能です。
TPPI的に考える
私が代表をつとめるNYAUWという活動ではTPPIの解決ということをいつも意識しております。[5][6]
TPPIとは、Theoretically Possible, But Practically Impossible の略です。
・オリンピック選手に競技を選べばなれますが、なろうとする人は殆どいないですよね?
・宝くじも理屈上買い占めれば必ず当たりますが買い占めませんよね(それに買い占めて全ての当たりくじを手に入れたとしても胴元の手数料分は負けるので)
このように、理屈上は可能でも現実的には不可能なこと(TPPI)をいかに解決するかが、常に私の課題です。
私の嫌いな言葉は「どんな状況でも頑張りましょう」という言葉です。そういった曖昧な言葉だと360度全方位的になんでもやらなくてはならないからです。そういった全方位的な頑張りが必要な環境や時期もあるのは認めます。
しかし、個人や組織における様々なリソースは限られております。薬局だと薬剤師さん、クリニックだと医師がいないと法律的に保険請求ができないため、その有資格者のリソースを有効活用することがその組織のパフォーマンスを向上させることになるのです。もっと端的にいうと、医師や薬剤師が業務に集中できるように環境を整えることです。
理屈上は全ての電話に医師が出ると、理屈上は疑義照会にすぐに対応できるようになります。しかし、どの電話が疑義照会かわからないので患者さんからの予約の電話や営業の電話などにも対応しなくてはならなくなり、組織のパフォーマンスの指標である患者さんの診療の流れに停滞が発生してしまいます。
そこで、医師以外のコメディカルが電話に出て、必要な電話を医師に繋ぐという現実的な解決策に落ち着いてしまうのです。そして診察中のこともあり、診察の隙間で折り返しの電話をして疑義照会に対応するという現在の疑義照会のよくある姿に収束してしまうのはある程度仕方のないことです。
医師の誤解:コメディカルとの適切な関係性
先ほど組織のパフォーマンスをあげるためにコメディカルが電話に出るなどして医師の業務環境を整えるということを書かせていただきましたが、ここで勘違いをする医師の先生もおられます。つまり、医師が一番偉くてそれ以外のコメディカルは医師をヘルプする役割であると。このような誤解から、院内スタッフや薬剤師に対して高圧的・横柄な態度を示す医師がいることは否定できません。
コメディカルとは?
様々なコメディカル(CO-MEDICAL)の方は制度上「医師の指導の下」で働いているためSUBMEDICALのようなイメージを自身や医師がお持ちかもしれません。 しかし、CO-OP(生活協同組合)やCOEDUCATION(男女共学)のようにCO-には「共に」とか「協力して」という意味があります。[7]
患者さんにとって、医師、受付スタッフ、薬剤師はそれぞれ専門性を持ち、互いに協力してプロとしての仕事をしてくれることを期待しているはずです。
マクロな視点と合成の誤謬
疑義照会アプリを構築して無料で公開しているのは「自分のクリニックのため」にというエゴから始まったことです。このプロフィール欄にもありますように「【医療・開業医のため息】をまず自分のために解決したい。」ということで全て自分のため視点で行っております。[7]
「儲かってもいないのに、なぜ「自分のため」「自分のクリニックのため」なのか?」という疑問を持たれるかもしれません。これは、どの範囲までを視野に入れるかによって答えが変わってきます。
「患者さんのために」ということで院内の受診体験を上げようとされていない院長先生はおられないはずです。
しかしながら、患者さんはもっと広い視点で受診体験を見ておられます。
つまり
・疑義照会は自分のクリニック外でのことなので 後回しにして良いというミクロ視点での受診体験
の捉え方
・疑義照会でのトラブルは自分のクリニックでの受診体験の一部なのでできるだけ早急に対応しなく
てはならないというマクロ視点での受診体験の捉え方
どちらのほうが長期的にクリニックの評判が上がるでしょうか? 後者のように、マクロ視点で疑義照会を解決することが、自分のクリニックの受診体験向上に繋がるという考えから、疑義照会アプリの開発に至りました。
逆にミクロな受診体験の捉え方をすると長期には損をするという「合成の誤謬問題」が発生すると考えたのです。[8]
合成の誤謬とは、簡単に言うと、「個々の主体にとって合理的と思われる行動が、全体としては非合理的な結果をもたらす」という現象を指します。
正確には「ミクロの視点では合理的な行動であっても、それが合成されたマクロの世界では、良くない結果を生じてしまうこと」を指す経済学用語です。例えば、「個人や企業の全員がそれぞれプラスに成ることをしているのに、結果として経済全体には悪影響を与えてしまう」事例が合成の誤謬に当たります。
よく例に出されるものとして
一般的に、「貯蓄をするのは良いことだ」とされています。ある個人が貯蓄志向になれば、その個人の貯蓄額は増加していきます。しかし、「国民全員が貯蓄志向になれば、社会全体の貯蓄額が増加していくか」というと、実はそうでもありません。
貯蓄額が増えると消費額が減り、市場全体の総需要が減ってしまいます。そして、市場全体の総需要が減れば、会社の売り上げも当然下がってきます。つまり、国民が5万円貯蓄額を増やした場合、それがそのまま売り上げの低下につながって、国民の総所得が5万円減ってしまうのです。 個人は貯蓄額を増加させようと動いたにも関わらず、それが原因で国民の総所得が減ってしまい、結果として経済全体では同額の貯蓄額の減少をもたらしてしまう。
医療でいうと、1人の患者の治療に専念するあまり、全体の治療安全を脅かす。医療は1人の医師が1人の患者を診ることから始まります。手術室を長く独占すれば、他の治療ができない。看護師が急変患者に集まれば、病棟にいる他の多くの患者が非安全となります。
このようなマクロ視点で患者さんのため薬剤師さんのために疑義照会を答えることが自分のクリニックのため、そして自分のためになるというマクロ視点・合成の誤謬問題の解決視点で捉える先生方がSOKUYAKUのサービスを採用されている先生方には多いとお聞きしてこの記事を書かせていただくことになりました。
今日はここまで
先ほど上で「診察の隙間で折り返しの電話をして疑義照会に対応するという現在の疑義照会のよくある姿に収束してしまうのはある程度仕方のないことです」と書きましたが、仕方がないと諦めるては解決にならないと思い疑義照会のアプリの設計思想を考え実装したのです。そのあたりは次回以降に!
参考リンク
(1)様々な試みリスト https://linktr.ee/nyauw.com
(2)アマゾン出版 https://amzn.to/40jksld
(3)Noteでのブログ執筆 https://note.com/teyede1972
(4)疑義照会アプリ https://gigishokai.com/
(5)NYAUWについて https://note.com/teyede1972/m/m001ba814efb4
(6)TPPIについてに一例 https://note.com/teyede1972/n/n43ff27c26403
(7)自分のため https://note.com/teyede1972/
(8)合成の誤謬 https://note.com/teyede1972/n/n5163b721fb3c
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